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山口地方裁判所 昭和38年(レ)23号 判決

判   決

北九州市小倉区中島本町三丁目

控訴人

将木繁太郎

右訴訟代理人弁護士

倉重達郎

下関市長門町三の五

被控訴人

井上悦子

右当事者間の昭和三八年(レ)第二三号家賃請求控訴事件につき、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴人の負担とする。」との判決を求めた。(以下省略)

理由

控訴人が被控訴人からその主張の期間その主張の二室を賃借したこと、被控訴人の夫訴外井上智行(以下単に智行という。)が昭和三五年二月一日現在、控訴人に対し元金一五〇、〇〇〇円の借入れをなしていたことは当事者間に争いがない。

そこで、双方の主張する昭和三五年二月一日以降の賃料ならびに同日締結された特約について審究する。

(証拠―省略)を総合して考察すると、

「一、控訴人は、昭和三四年一一月五日頃智行に対して、五〇、〇〇〇を無利息で貸与し、昭和三五年一月末頃智行の求めに応じて更に一〇〇、〇〇〇円を貸付けることとしたが、その際利息等について同人と協議した結果、同人との間において智行の右借入金合計一五〇、〇〇〇円につき改めてこれを消費貸借の目的とし、これが担保として原判決添付の別紙目録記載の宅地、建物に抵当権を設定すること、その弁済期を昭和三六年一月末日、利息を月五分とする旨の契約を締結すると共に、智行は被控訴人を代理して、前記家屋の二室の賃貸借による毎月末払いの従前の賃料月六、〇〇〇円を、以後月五、五〇〇〇円に減額し、その支払いについては、前記一五〇、〇〇〇円が返済されるまで、毎月末払いの利息の支払義務を被控訴人において負担し、右賃料と利息の両債務は、弁済期が到来することにより右五、五〇〇〇円の対当額において相殺されたものとし、これをもつて、互にその支払いを終えたものとする旨の特約をなした。

二、控訴人は、昭和三五年二月一日頃前記約束に従い、一〇〇、〇〇〇円を智行に貸渡したうえ、前記物件に対して抵当権を設定するため、その旨の契約条項を記載した「金銭消費貸借抵当権設定契約書」なる書面(甲第一号証)を作成し、これを被控訴人の代理人兼債務者たる智行に呈示し、その署名押印を求めた。右契約書には、元金一六〇、〇〇〇円、利息年一割八分と記載されていたが、元金については控訴人が被控訴人に納付していた敷金一〇、〇〇〇円を併せ記入したものであつて、智行はこれを諒承した。利息については、一五〇、〇〇〇円に対する月五分の利息から月五、五〇〇円の賃料を差引いて算出した残余の年利率であつたが、智行は右一割八歩のうち、八分は免除して欲しい旨申出で、結局前記賃料を更に五、〇〇〇円に減額し、残余の利息を年一割とし前記相殺に関する特約は右五、〇〇〇についてそのまま流用し、利息と対当額において決済して行く旨の話合が成立した結果、右契約書に智行及び抵当権設定者としての被控訴人の各署名捺印がなされた。

三、智行は、昭和三五年二月六日頃前段同様被控訴人を代理して前記賃料につき、「井上アパート通帳」なる書面(乙第一号証)に、同年二月分から翌昭和三六年一月分まで前記約旨に従い一カ月五、〇〇〇円あて領収したことを証する記帳をなして受領印を押捺し、更に昭和三六年一月頃同様にして「井上アパート通帳」(乙第二号証)に同年二月分から同年六月分まで五、〇〇〇円あて領収したことを証する記帳捺印をなした。

他方、控訴人は同月五月二六日智行から前記一五〇、〇〇〇円と敷金一〇、〇〇〇円合計一六〇、〇〇〇円の返済をうけて前記家屋(二室)から退去し右賃貸借契約は終了した。」

ことを認めることができる。

原審証人(省略)の証言中、右認定に反する部分は、当裁判所はこれを措信せず、他に右認定を覆して被控訴人の主張を認めるに足る証拠はない。

右事実によると、被控訴人は昭和三五年二月一日控訴人との間に同日智行が控訴人に対して負担した一五〇、〇〇〇円の準消費貸借に基づく月五分の利息債務の引受契約を締結し、これと、控訴人に対する同月以降月五、〇〇〇円の減額賃料債権とを毎月末その期限到来と共に相殺の効果を生ずべき、いわゆる相殺の予約をなしたというべきである。

もとより、元金一五〇、〇〇〇円に対する月五分の利率は利息制限法一条一項の制限を超過するものではあるけれども、当事者間の合意に基づいて、右家賃債権と利息債務とが同月分から毎月末その期限到来と共に、五、〇〇〇円の対当額において自動的に消滅するとの相殺が、昭和三六年五月分までその効果を生じたとされる後に提起されたものであること、記録上明らかな本訴(昭和三六年六月二日訴提起)においては、本件相殺の予約が著しく公序良俗に反する結果を招来する旨の特段の立証もないので、同条二項の趣旨に照らして、被控訴人の同年四月分までの賃料請求は、もはや許されないものと解すべきである。

してみると、その余の事項の判断をまつまでもなく、被控訴人の本訴請求は理由がない。

よつて、被控訴人の本訴請求は失当として棄却すべく、三四、五〇〇円とこれに対する昭和三六年六月二五日から右支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払義務の範囲において被控訴人の請求を認容した原判決は不当であるから、この限度において取消すこととし、民事訴訟法三八六条、八九条、九六条を適用して主文のとおり判決する。

山口地方裁判所第一部

裁判長裁判官 平 井 哲 雄

裁判官 小 林   優

裁判官 中 村 行 雄

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